アストラゼネカ社が開発している新型コロナウイルスに対するワクチンの開発が安全性の問題から中断されました。被験者に「横断性脊髄炎」を認めたとのことですが。どういった疾患なんでしょうか?また次週にも再開予定としていますが、再開の基準はどういったものなんでしょう?
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は9日、英製薬大手アストラゼネカが中断した新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験が、来週にも再開される見通しだと報じた。英国の被験者が病気になったため、同社は試験を中断し、独立委員会が調査を進めている。
引用:読売新聞
1.横断性脊髄炎ってどんな病気?
脊髄は、頚髄→胸髄→腰髄→仙髄→尾髄とかけて計31の節があります。その節ごとに体の神経の支配領域が決められています。支配領域の例としてよく見る図がデルマトームと呼ばれる図です。
引用:http://comedical.blog23.fc2.com/blog-entry-56.html
各髄節が支配している感覚領域を示す図です。横断性髄膜炎は、その単一の髄節もしくは隣り合う髄節に急性炎症を引き起こす疾患です。
2.横断性脊髄炎の症状は?
炎症を生じた髄節より下の神経支配領域で、両側性に運動障害や感覚障害が起きます。膀胱の筋肉に影響があれば尿閉・尿失禁と言った症状も出現しますし、直腸の筋肉に影響があれば便失禁も生じます。
3.横断性脊髄炎の原因は?
多発性硬化症と呼ばれる疾患で生じる場合が最も多いです。私の経験も多発性硬化症の患者さんでした。その他の血管炎を始めとする自己免疫性疾患、細菌感染、ウイルス感染、真菌感染、結核などでも発症例の報告があります。薬剤の副作用としても報告があります。ワクチンの副作用としても知られています。近年では膠原病の治療薬としての抗体製剤でも横断性脊髄炎が発症したとの報告を目にすることがあります。PMDAのホームページから検索すると横断性脊髄炎を添付文書上で注意喚起している薬剤は、19件認められます。
4.横断性脊髄炎の治療は?治るの?
まずは、原因となる疾患の治療が優先されますが、薬剤の副作用であれば薬剤の投与を中止して、コルチコステロイドの大量投与で対応することになると思います。治療効果は症状の進行によりけりです。急速に進行する場合には治療効果は悪いのが一般的です。おおよそ3分の1が回復して、3分の1に後遺症が残り、3分の1は寝たきりになると言われています。
5.ワクチン開発治験の再開の基準は?
再開の可否は独立モニタリング委員会(DMC)の判断に託されています。もちろんDMCがOKを出してもアストラゼネカ社が断念する可能性も否定はできません。横断性脊髄炎を発症した被験者が軽度なのか重度なのか?治療の効果はどうなっているのか?横断性脊髄炎を発症するのに別の因子がなかったのかなど、様々な角度から再開の可否について検討をされるはずです。DMCの特徴上、議論の途中経過が外に漏れることはありません。DMCの結論をまず待ちましょう。
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