先日COVID-19に対してのベクルリーの有効性と安全性のデータが医学雑誌(New England Journal of Medicine)に掲載されました。ベクルリーは国内ではすでに本年5月に特例承認を受けており、重症例に対しては現場で使用されています。有効性についてはデータが明らかになっておりましたが、安全性の面では情報公開が不十分であったため、確認してみようと思います。
ベクルリーの有効性・安全性を確認した試験とは?
ベクルリーは国際多施設共同試験を行っています。試験名はNIAID ACTT-1試験。本試験では1062名を超えるCOVID-19中等症と重症患者が登録されています。患者を無作為化して、ベクルリー投与群とプラセボ投与群に1:1に振り分けます。試験の目標は試験の組み入れ参加後の28日後におけるCOVID-19の回復までの時間の短縮です。
ベクルリー投与群の回復までの時間は?
ベクルリー投与群は、プラセボ投与群と比較して5日間短縮しています。ベクルリー投与群が10日、プラセボ投与群で15日です。重症例に限るとベクルリー投与群で11日、プラセボ投与群で18日でした。
ベクルリー投与群とプラセボ投与群の死亡率は?
対象患者が中等症~重症患者を対象としています。普段テレビやネットでみる死亡率よりもはるかに高くなっています。29日の段階でプラセボ投与群で15.2%、ベクルリー投与群で11.4%でした。
試験に参加した日本人の数は?
試験に参加した国は、米国、デンマーク、英国、ギリシャ、ドイツ、韓国、メキシコ、スペイン、日本、シンガポールです。残念ながら登録患者の背景は人種のみが提示されています。アジア人は135人参加しており、ベクルリー投与群には79名、プラセボ投与群は56名でした。
ベクルリーの副作用情報は?
公表された安全性情報は、副作用ではなく有害事象です。副作用は薬との因果関係がある事象で、有害事象は因果関係を考慮しないあらゆる好ましくない事象と考えてください。重篤な有害事象の発現頻度はベクルリー投与群で24%、プラセボ投与群で32%となります。この場合の有害事象にはCOVID-19による呼吸不全を含みます。ベクルリー投与をしていても8.8%の患者さんが急性呼吸不全となり、気管内挿管が必要となっていますが、プラセボ投与群では15.5%の患者さんが急性呼吸不全から気管内挿管を行っています。少なくともベクルリーが関連した死亡にいたった副作用はないと報告しています。その他ベクルリー投与群、プラセボ投与群で同程度で腎機能障害(糸球体ろ過率の低下)、リンパ球数の低下、貧血、高血糖などが報告されています。
ベクルリー投与はCOVID-19の回復に役立つ?
先日WHO専門家パネルはベクルリーの効果に疑問を呈しており、「生存の可能性を改善させたり人工呼吸の必要性を減らす証拠は現在ない」とコメントを出しておりました。今回公表されたNIAID ACTT-1試験は有効性を証明しています。ただ試験で有効性を確認しても、実際の現場では効果がないということは珍しいことではありません。市販後の有効性についての情報も公表されたら記事にしたいと思います。また安全性についても試験では認めなかった副作用が出現することは必須です。続報を注意して追いかけていく必要があります。
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