スポーツ庁の室伏広治長官が悪性脳リンパ腫の
治療中であることを発表されましたね。
悪性脳リンパ腫は我々にとっては
原発性中枢神経系悪性リンパ腫(Primary CNS Lymphoma:PCNSL)
と呼ぶのが一般的です。
いくつかの記事にも記載されていましたが、
標準治療法は通常用量よりも高用量のメソトレキサートという
抗がん剤を投与します。
高用量の抗がん剤を投与するため副作用も大変です。
赤血球や白血球、血小板が極端に減る骨髄毒性
口内炎などの粘膜炎
抗がん剤を代謝する臓器である肝障害
などを十分に注意しつつ治療を行います。
高用量のメソトレキサートのPCNSLに対する治療成績は
いくつかの報告がありますが、日本での試験成績を見ると
生存期間の中央値が44カ月
(泉本修一,森鑑二,有田憲生.中枢神経系悪性リンパ腫研究会.悪性リンパ腫に対するHD—MTX療法の長期成績と問題点―多施設共同研究から.第26回日本脳腫瘍学会抄録集.2008:130.)
となっています。
言い換えると44カ月以内に半分の方はお亡くなりになる
と、いう意味です。
こんな治療が困難な疾患に対して2020年に新たな薬が承認されました。
そればベレキシブル(Tilabrutinib)です。
悪性脳リンパ腫治療の最新治療薬は?
ベレキシブルは小野薬品工業が開発・販売している薬剤です。
BTKと呼ばれるリンパ球の増殖因子を抑制する薬で
既に慢性リンパ性白血病に対して販売承認を受けている
イムブルビカも同様の作用機序を示しています。
以前新型コロナウイルス感染に効果が期待できる薬剤として
アカラブルチニブという薬を紹介しましたが
この薬剤もBTK阻害剤です。
参考:新型コロナ感染の新薬候補!アカラブルチニブってどんな薬?
ベレキシブルの治療成績は
大量メソトレキセート療法後に再発した症例を対象として
試験を実施しています。
用量を決めるための試験も同時進行で行っているので
承認用量の480mgだけを記載します。
ベレキシブルを投与することで完全寛解(病変が見えなくなる)
を得る割合は35.3%となっています。
ベレキシブルは経口薬です。
副作用も大量メソトレキセート療法よりも
断然少なくコントロールしやすい印象です。
近い将来には未治療のPCNSLの患者さんにも
使用される日が来ると思われます。
室伏広治長官は大丈夫か?
記事だけを見ると大量メソトレキセート療法は
終了しているようですね。
そのうえで追加の治療として
大量化学療法+自己末梢血幹細胞移植
を計画しているとのことです。
現在のPCNSLの診療ガイドラインでは
大量化学療法+自己末梢血幹細胞移植
を積極的には推奨していません。
その理由はデータが十分ではないからです。
元々PCNSLの患者さんは稀な存在です。
そんな珍しい疾患ですから十分なデータがなくとも
不思議はありません。
そんなわけで現時点ではPCNSLに対する
大量化学療法+自己末梢血幹細胞移植
は試験段階であると言えます。
もちろん疾患の特徴を考えると治療効果には期待感はあります。
おそらくどこからの脳神経外科のグループの
試験に参加することになっていると思います。
現時点では治療成績は不明である治療方針であるため
大丈夫か大丈夫でないかを知るには時間が必要です。
医療はこうやって積み上げて進歩していきます。
どうか素晴らしい治療成績が認められ
室伏長官も元気にまだまだ活躍なされることを
心からお祈り申し上げます。
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