メトホルミンはビグアナイド系と呼ばれる経口血糖降下薬である。糖尿病患者さんの治療が目的に使用される薬であり、糖尿病の治療における標準治療薬の一つです。私の外来でも複数人の患者さんに処方をしています。私のメトホルミンの印象ですが、糖尿病の効果も実感できますし、副作用も多いとは思えません。比較的安全に使用できる薬であるという印象です。またメトホルミンは排卵障害を有する不妊症に用いられることも知られており、産婦人科の先生より相談を受けることもあります。不妊症の治療目的で投与するときに注意すべき点は何でしょう。赤ちゃんの奇形のリスクなんかも大丈夫なんでしょうか?
1.メトホルミンが糖尿病に効くワケ。
非常に専門的な話は正書に任せます。ここでは簡単に言います。メトホルミンは血糖値を細胞に取り込むホルモンであるインスリンの効果(インスリン感受性)を改善する効果を持ちます。少量のインスリンでも効率的に糖分を細胞内に取り込ませることができるので、血糖値が下がりやすくなります。
2.メトホルミンが不妊症に効くワケ。
排卵障害の代表疾患であるは多囊胞性卵巣症候群性卵巣症候群(PCOS)の病態にはインスリン感受性の低下が関係するということが分かっています。つまり日常的に体内のインスリンが高濃度に存在し、高濃度のインスリンに暴露されていると排卵がしにくいことが分かっています。そこでメトホルミンによってインスリン感受性を改善させ、血中のインスリン濃度が下がれば排卵も回復するという理論からPCOS合併の不妊症の方にメトホルミンが投与されるようになってきました。
3.メトホルミンの副作用。
1.乳酸アシドーシス
代表的な副作用として、乳酸アシドーシスという副作用があります。代表的というのは医師ならば知っておくべき副作用という意味で、決して頻繁に見る疾患というわけではありません。発症前の特徴としては、風邪や嘔吐下痢症などで食事・飲水が極端にできなくなり、脱水症になります。メトホルミンの薬効にインスリン感受性の改善については記載しましたが、もう一つ乳酸からの糖が作られるのを抑制する効果もあります。脱水によって血液中のメトホルミンの濃度が上昇し、血液中の乳酸が多く余ります。その上で脱水によって乳酸の濃度も上がります。乳酸の排出経路である尿も少なくなるので、より乳酸がたまります。悪循環に陥った結果体内の酸・アルカリのバランスが酸性に傾き、結果命を落とすという副作用です。ポイントは脱水にならないこと。食事や飲水が困難な時は服薬を休止することです。また多量のアルコールにも注意が必要ですが、不妊症の治療をされている方が多量のアルコールを取られることはないと思うので割愛します。
2.低血糖
糖尿病の治療薬ですので、低血糖の危険性は必ずあります。初期症状は嘔気や手のしびれ、脱力感、発汗などです。おかしいなと思ったら糖分を摂取すること。バッグの中にはいつでも飴などの糖分を入れておくべきです。
3.下痢・悪心、食欲不振、腹痛
これらの消化器系の副作用は、大なり小なりの訴えがあります。徐々に慣れる方もいれば、やっぱり耐えられない方もいます。個人的には対処にそれほど苦労した経験はありません。ただ糖尿病の治療を目的にしていると、簡単に他の薬に切り替えることができるので、苦労の記憶が薄いだけかもしれません。PCOSにおける不妊症の薬としては他の代替方法が少ないので、対処していくしかないかもしれません。
3.メトホルミンには奇形の心配はないの?
妊娠してから内服を継続するのであれば、赤ちゃんへの影響は否定できません。しかしながら不妊治療を受けられている方であれば、赤ちゃんとお母さんがへその緒でつながる前に、メトホルミンを中止することができますので、あまり心配することはないでしょう。
4.メトホルミンは保険診療で投与できるの?
残念ながらメトホルミンは、2型糖尿病を対象として開発され、2型糖尿病の適応しか取得していません。排卵誘発剤としての不妊治療の使用は厚生労働省は認めていません。したがって保険診療では処方できません。
4で述べましたように厚生労働省が正式に認可した適応ではありませんので、使用に際しては産科専門医の下で処方を受けて十分に注意して経過観察を受けてください。日本産婦人科学会が治療指針を作成しています。
コメント