コロナ禍で数が少ないと問題視されている感染症の専門医。
感染症の専門医数をカバーするために総合内科専門医を有効活用しようとの議論が見られます。
実際の総合内科専門医って何をしているのでしょう?
また資格試験の合格率ってどの程度なのか記事にしたいと思います。
こんにちは。
企業勤めの内科医ヒロスケです。
今回は「総合内科専門医」についてです。
総合内科専門医とは?って質問に対しては内科学会が公表している回答があります。
ただ理想論を述べているような印象がぬぐえません。
現実的な内容とは思えないんですよね。
もちろん理想を高く掲げて臨床に励んでいる素晴らしい先生もいるのですが・・・。
ここではもうちょっと現実論的な総合内科専門医についてお話します。
総合内科専門医って何?
かつて内科学会の資格は、内科認定医と内科専門医の2階建てでした。
大半の内科医は認定医は取得していました。
内科認定医を取得しないと、専門学会の専門医が取得できないからです。
実際、実際私も内科認定医を取得後に日本呼吸器学会を始めとした専門医を取得しています。
では、内科専門医はどうでしょう?
基本的に内科専門医って取得してもそれほどのメリットはなかったんです。
資格試験も激ムズですし、更新に必要な学会出席の回数も非常に多く、維持するためには苦労が付きまといます。
そんなこんなで大半の内科医は内科専門医はスルーして、専門学会の専門医取得に集中します。
この流れを大きく変えたのが、2013年に発表された厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」の最終報告です。
この報告により研修医の研修システムが刷新されます。
と、同時にそれまでの内科の認定システムが変更されることになりました。
内科認定医試験を終了し、内科専門医に一本化されることになります。
現時点で内科認定医自体は存続しますが、資格としての価値がなくなります。
資格としての価値とは、内科の指導医になれないということです。
内科指導医になれないということは、大病院での管理職の道が閉ざされるということ。
それは困ると声を上げるのは、現段階で専門医を持っていない指導医の先生方です。
実際に地方の研修病院で内科指導医が不在になるという事態になると研修医の研修システムが崩壊します。
そこで、内科学会が提案したのが暫定処置を発表しました。
内科認定医資格を有している内科医は、試験に合格さえできればなれる「総合内科専門医」という資格です。
総合内科専門医を取得しておけば、新制度における内科専門医と同等の資格を有したことになります。
内科専門医試験と総合内科専門医試験の違い
どちらも試験の難易度は変わらないと思います。
ただ大きく違うのは、前者は症例報告書を提出する必要があります。
様々な分野の疾患についての患者さんのレポートを学会に提出する必要があります。
このレポートを作成するのが骨が折れます。
例えば40歳代、50歳代の管理職をしている医師に専門外の患者さんの診察をする余裕はありません。
また疾患によっては大病院でないと経験できない疾患もあります(例えば白血病)。
自然と歳をとるにつれてみる疾患が偏ってくるのは自然な流れとも言えます。
そんなこんなで新内科専門医を取得するのが困難な医師はこぞって総合内科専門医試験を受けることになったのです。
総合内科専門医試験ってむつかしいの?
試験ははっきり言って難しかったです。
一目見て「分からん!!」って問題が数問含まれます。
合格率は60~70%くらい。
結構受かってるんだね、って思われた方は考え直してください。
こと子供のころから試験に関しては百戦錬磨だったであろう医師が受けてこの結果です。
その難しさは想像できると思います。
医学の発展は日進月歩とよく言われます。
国家試験から10年、内科認定医の試験から数年も経過していると専門分野以外の治療は完全に刷新されていると言っても過言はありません。
普段から広い分野の疾患を見ている先生にとってはそれなりの勉強時間で済むでしょう(それでも1日2時間くらいは必要かな)。
ただ専門分野にどっぷりと浸かってしまった先生はきついでしょうね。
私は比較的恵まれていたと思います。
専門分野は呼吸器ですが、肺癌診療をするので癌一般の知識も持っています。
抗がん剤の副作用コントロールで全身臓器を見ることになれています。
喘息でアレルギー、間質性肺炎で膠原病の知識もあります。
感染症の知識もアップデートしてました。
日常診療でほとんどお目にかからないのが、不整脈と稀な内分泌疾患くらいでしょうか。
国家試験の問題集と専門医試験の過去問は一通りやって合格しました。
コロナ禍での総合内科専門医の使い道
結局のところ総合内科専門医ってのは試験に合格した内科認定医のグレードアップ版。
つまり総合内科専門医になっても日常の診療に変化はありません。
総合内科専門医になったから特別な医療が提供できるようになったわけではないのです。
ある日突然スパードクターになれるわけないですよね。
例えば普段消化器を専門にしている医師が、総合専門内科医になった日から間質性肺炎の診断から治療ができる様になるわけではありません。
ただ知識のアップデートはかなりできます。
そういった意味で各臓器専門医に丸投げではなく、最低限の検査、処置を行った上での紹介が可能にはなります。
これまで専門医が診察をしないと検査も治療も始まらなかったのが、最低限の検査と治療が始まった状況で専門医にバトンタッチができる様になります。
この時間短縮の効果はあると思います。
これまでの医療は専門分野の追及が推奨されていました。
もちろん専門分野を深く深く追及するのも素晴らしいですが、やはり深く追及するには関連臓器、関連疾患の知識は必須だと思います。
私が研修医によく伝えるのは、理想は「山型」だと教えています。
自分の専門分野を頂上として、関連疾患や関連臓器はその専門分野との距離応じて知識を積み重ねないと合併症や副作用が生じた時に対応できなくなるからです。
新型コロナ感染が始まって2年近く。
危険因子や合併症のデータが集積されています。
医療はチームで行うべきものです。
マスコミなどで取り上げられる理想の医療像は何でもできるスーパードクターが沢山いるようなイメージじゃないでしょうか?
私は初診から専門医への紹介、治療開始までがシームレスで一連の流れで進む医療が現実的な理想論だと思っています。
普段からコミュニケーションが取れている医師仲間だと可能なのですが、大学病院などで普段コミュニケーションしていない医師とだと難しいでしょうね。
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