こんにちは。
企業勤めの内科医ヒロスケです。
今回は「製薬企業における医師の仕事」についてです。
製薬企業に転職してから10数年経ちました。
そんな私の経験から製薬企業での医師の仕事について記事にしたいと思います。
製薬企業への転職を考えている方の参考になれば幸いです。
製薬企業が医師を雇う理由
製薬企業の直接の顧客は医師です。
もちろん患者さんのために薬品を製造しているのですが、患者さんと直接コミュニケーションを取ることは製薬企業にはできません。
患者さんは間接的な顧客と言えます。
したがって患者さんに直接コミュニケーションをする医師との対応が重要となってきます。
医師が何を求め、どんな情報を有益と考えているのか?
医師の視点で、患者さんにとって有益と考える薬はどんな薬なのか?
結局のところどんなに素晴らしい薬剤であっても、医師にその素晴らしさが伝わっていないと患者さんの元には届きません。
顧客(医師)が必要とする情報とは?という問いにダイレクトに答えるためには、どうすればいいのか?
答えは簡単です。
医師を雇って、一緒に働いてもらえば良いのです。
もちろんそれだけではありません。
必要な情報を入手するための臨床試験のデザインであったり、薬ごとにあるベネフィット・リスクバランスを考えた安全性情報を提供の仕方など。
細かな内容を説明すると一記事では無理です。
アドバイザー契約ではダメなの?
かつて国内の製薬企業は大学病院や大病院の医師とアドバイザー契約を結び情報を収集していました。
しかし、製薬企業と医師との癒着が問題視されるようになり、医師も企業とのアドバイザー契約を敬遠するようになります。
もちろん現在でも現場の医師の意見は重要ですので、アドバイザー契約は存在します。
しかし、その契約にはハードルがあり、なんでも気軽に質問すると言ったようなことはできません。
実際に製薬企業で働くようになって感じるのが、様々な臨床上の疑問に対応する必要が生じること。
経験者であれば何気ない臨床上の疑問でも、非経験者であれば難問になります。
日常の何気ない疑問全てに外部の医師に尋ねるのは無理があります。
現場の医師は非常に多忙です。
そんな疑問に企業勤務の医師は答えなければいけません。
「そんなことわからないの?」
なんて口にしてしまう人は、企業勤務には向いていません。
社員の何気ない疑問の解決がより良い現場に役立つ情報提供に変化していきます。
グローバル企業では、医師が働いていることは珍しくない
グローバル企業では、経営陣に医師が含まれていることは珍しくありません。
またアメリカのバイオファーマなどは医師がCEOなんてことも珍しくありません。
彼らは医師免許を持ち、かつMBAも取得しています。
グローバル会議では彼らと同じ目線で話し合う必要があります。
もちろん私は経営のことは分かっていません(勉強はしていますが)。
ただ臨床上の有用性を討議する時には、臨床経験を持つ我々に敬意をもって接してくれます。
何故なら米国や欧州の企業医師の多くは、臨床の経験を得ずに企業勤めをしています。
そういった点で、彼らは一定の敬意をもって接してくれます。
上述したように海外では医師が企業で活躍することは珍しくありません。
すると国内の企業も彼らと対等に臨床のデータを話し合う人材が必要になります。
グローバル企業であればなおのこと社内会議で日本の臨床を説明できる人材を必要とします。
この点も国内で製薬企業が医師を雇う理由の一つです。
製薬企業内で医師が働く部署は?
医師が所属する部署は大きく分けて三つあります。
- 臨床開発
- ファーマコビジランス
- メディカルアフェアーズ
主にはこれらの部署でポジションが準備されています。
もちろん企業に入った後に、その適正によっては他部門でのポジションが紹介される人もいると思います。
臨床開発
新薬の開発を行う部署です。
臨床試験のデザインをし、実践し、集計の後に解析・評価を行います。
結果が好ましいモノであれば、PMDA・厚生労働省に新薬申請を行います。
臨床試験のデザインが販売開始後の使い勝手を決めます。
無茶なデザインを組むと、使い勝手の悪い薬品となり、使用されません。
しかし、なんでも使えるようなデザインでは、試験結果に影響を及ぼす可能性があります。
例えば、対象症例の条件付け。
試験の参加基準を厳しくすれば、優れた試験結果を得られる可能性が増します。
その反面、販売してもごく限らえた患者さんしか使えない薬になってしまいます。
誰でも参加できる試験にすると、ノイズが多く試験結果が予想を下回るといったことは珍しくありません。
このバランスをとる上で、医師の目線は重要視されます。
試験デザインは多くの社員の知恵を絞って作られますが、その一員としての活躍が期待されます。
また試験実施中に生じた副作用などの対応や、治験実施施設からの医学的な質問の対応なども臨床開発に所属している医師の職務に含まれます。
ファーマコビジランス
主に安全性情報を取り扱う部門になります。
国内でも海外でも薬に関する安全性情報の取り扱いには厳しい法規制が存在します。
その法規制に従い副作用を評価し、必要に応じて添付文書等で現場にフィードバックを行います。
安全性情報には重大なモノから軽微なモノまで玉石混合で多くの情報があります。
この多くの情報の中から重大な情報をピックアップし、優先順位をつけ、対応を行うために医師の知識と経験が生かされます。
薬は疾患に対して選択されます。
そこには当然ベネフィット・リスクバランスが存在します。
例えば、抗がん剤の副作用と高血圧薬の副作用はそれぞれの重みが全く異なります。
このベネフィット・リスクバランスを取る能力は圧倒的に医師が存在感を示せる能力です。
メディカルアフェアーズ
この部門が最も理解しずらいと思います。
実際に企業によってその職務内容の幅が異なります。
一つの職務に、医師に学術的情報を提供することがあります。
現在の国内の規制下では厚労省から非承認の薬剤についての情報を営業目的に提供することは禁止されています。
そこでこの部門が活躍しています。
学会情報や論文情報など、非承認の適応症の情報も取り扱っています。
もう一つの職務に、医師主導試験のサポートがあります。
大学病院が、個別にデザインした試験のサポートを行っています。
あくまでも企業がサポートすることにメリットがあると判断した場合に限られますが、この判断基準は各社苦労して法規制にかからないように設定していると思います。
私個人の感想ですが、一歩間違えると黒になりかねないグレーゾーンでの職務がある印象を持っています。
製薬企業で働くことのメリット・デメリットは?
何と言っても最新の情報を取り扱い、料理する機会を得る事だと私は思っています。
またその情報を得るための試験のデザインに関われる点もあります。
その他ワークライフバランスも良いと思います。
給与の面も臨床医の時よりも良い条件を頂けています。
デメリットは、やはり患者さんと直接かかわれる機会が無くなることでしょうか。
やっぱり直接患者さんと関わり、患者さんの病態が改善するのを目の当たりにすることは医師として幸せを感じる瞬間ではあります。
この点で企業で働くモチベーションを失い、臨床現場に戻る医師はたくさんいます。
もっとたくさんのメリット・デメリットはあります。
もしあなたが企業勤務に興味を持っているなら、リクルーターからの情報収集は有益です。
実際の給与や福利厚生、労働条件、などなど。
ただm3や日経メディカルなどの医療系の求人情報では、製薬企業への転職情報に限りがあります。
やっぱり専門のリクルーターが必要です。
医師の製薬企業に転職するための案件を取りあつかっている会社は、基本的にはエグゼクティブな案件ばかり。
あまりインターネットでの検索ではヒットしません。
例えば「エンワールド」
こちらの企業は臨床から初めて企業に転職する医師専任のリクルーターがいます。
その他にも初めて企業に応募する医師に力をいれているJACリクルートメントもお勧めできます。
初めて企業に応募するのならリクルーターは2社から3社登録しましょう。
取り扱っている案件がリクルーターによって違います。
今のところ私は転職は考えていませんが、多くのリクルーターが連絡をくれます。
関係を維持することの重要性を彼らは知っています。
彼らにしてみれば医師とのコネクションは価値があります。
従ってあなたがすぐに転職をする気持ちがなくとも、リクルーターとの接触は躊躇する必要はありません。
あなたとつながっているメリットを彼らは感じています。
上述した「エンワールド」「JACリクルートメント」も定期的に私に情報提供をしてくれるリクルート社です。
ご興味がある方は無料面談を申し込んでみてはいかがでしょう?
部下や同業者によく言っているのですが、
転職にはリスクはあるが、転職活動にリスクはありません。
自身の業界の価値を知ることはとても重要です。
今、どこか募集してるところがある?
それくらいの疑問なら私から質問もできます。
もし私に質問してみたいことがあれば、Twitterで直メ下さい。
お時間が許せばZOOMで直接お話しすることも可能です。
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コメント
突然のコメント失礼致します。Twitterのメッセージが送信できない状態でしたので、こちらからコメントさせて頂いております。
医学部6回生の学生のMと申します。(公開コメントのためイニシャルで記載することをお許しください。)
海外での勤務の可能性を考えて、将来的に製薬企業で勤務を視野に入れております。
製薬企業で特に求められる診療科等はありますでしょうか。現時点では血液内科や腎臓内科を志望していますが、固形がんの診療経験が不足することを懸念しています。
また、医局に所属したまま製薬企業で勤務することは可能でしょうか。
お忙しい中恐縮ですが、ご回答頂けますと幸いです。何卒宜しくお願い申し上げます。
Xへの書き込みができなかったようでご迷惑をおかけしました。
近年の多くの企業は抗がん剤領域へ多額の投資を行っているように思えます。そういった意味では血液腫瘍、固形癌にかかわらずがん領域を専門にすることは多くのチャンスは狙えます。私も臨床腫瘍学会の専門医を有しております。私へのリクルーターからの連絡の多くは腫瘍もしくは血液領域、時々希少疾患の領域での案件紹介となっています。
医局に属したまま製薬企業に勤めることに関してはそれぞれの教室の教授次第だと思います。ただ医局にとって人事権は失うわけですから、あまり好ましいとは思えません。
いずれにせよ、企業は臨床経験を有していない医師をあえて雇うことはありませんので、専門医程度は取得しておいた方が良いでしょう。
お忙しい中、コメントに返信して頂きまして誠にありがとうございます。
腫瘍関連の経験が製薬企業で活用できるという点、大変参考になりました。実際に製薬業界に関わっておられる方からのご意見は大変有り難いです。
今後ともブログを楽しみに拝見しております。この度はありがとうございました。
お忙しい中返信を頂きまして誠にありがとうございます。
腫瘍領域の医師が特に求められるというお話は大変参考になりました。実際に製薬業界に携わっておられる方からのお話は大変貴重で有り難いです。
今後ともブログを楽しみに拝見しております。